10 – 恥辱の時

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私とフルールは、互いに必死に口を閉じて魔人の思い通りになるまい、と抵抗する。

触れあうのは、互いの口だけじゃない。

必然、汗ばんだ身体も。
互いに正面から、素肌が密着するのだ。

フルールのお腹と、私のお腹がくっついて、互いの体温と柔らかさ、湿った身体の感触に震える。ばたつくフルールの足の指が私のすねに触れて、思わずびくりとする。

「……やっ……、やぁ……っ……! やぁあああっ」

恥ずかしさに顔が真っ赤になる。

これまで、フルールのことは相棒だと思ってきた。
小さな体に大いなる勇気と使命感を秘めた、素敵な男の子。

こんな弟がいたら、と思うこともあった。

けれど。
今、こんなふうに妖精の身体ではなく人間の少年の姿にされてしまったフルールに、こんな形で触れ合うことになるなんて想像すらできなかった事だ。

それはフルールも同じなのだろう。

「……んん……んぅーっ……!」

彼も必死に目を閉じて、魔人の思うままになるまいと身体を強張らせてもがく。

けれどそんな私達の抵抗は、魔人の圧倒的な力の前ではあまりにも無力だった。

魔人は、飽くなき悪意で私達を玩弄し続ける。

「……おやおや。せっかくの俺様の好意が気に入らんのか? ならば、このままガキの首をねじ切ってやってもいいのだぞ?」

思わず息を呑む私とフルールに対し、ゼードがからかうように煽り立てる。

「 妖精よ。ここで、命など惜しくない、と意地を張ってみるか? それはそれでかまわんぞ。オマエの首と胴が離れる様を目の当たりにして、この魔法少女がどのように泣いて叫ぶのか。それを見て楽しむのも一興よ」

「……うぅ……く……」

私の唇に押し付けられたフルールの小さな唇。
そこから力無く呻き声が漏れる。

それを見ながら、ゼードは黄色い瞳を歪ませて笑う。

「くだらん死に方をしたくなければ、舌のひとつも絡ませてみることだ」

身動きがとれないまま、私達は無理やりに唇を押し付けられて。

魔人の言うがままに唇を開き、舌を舐めあう。悔しいけれど、少しずつ漏れてしまう水音を止めることができない。

ちゅ、く。くちゅ、ちゅぷ。

「んん、……んんん!……」
「……んく……ぅ……うう……あむ」

ちゅぷぷ……んちゅっ……くちゅ……。

フルールの口の中の水分と、私の口の中の水分とが、唇の表層で混ざり合う。

混ざり合うのは唇だけじゃない。
汗も。涙も。

せつなくて。かなしくて。くやしくて。
私とフルールの目からは、涙がぽろぽろとこぼれて。

じっとりと汗ばんだ互いの頬の上でそれらが一緒になって流れ落ち、口の中に入ってきて。

「ふぅ……ぅぐ……ううううっ」

ふたり、その涙の味に泣いた。

そして、ようやく。
ゼードは満足したのか、私とフルールを引き離す。

「うぅ…、…く」

恥辱と緊張から解放されて放心した様子のフルール。

年端もいかぬ裸の少年が、ぐったりとする姿がなんとも痛ましい。

ゼードはそんな彼を、闇の魔法で空中に磔にした。

「……ぅああ……あっ」

抵抗らしい抵抗もできず、不可視の十字架に固定されて宙に浮くフルール。

夜の教室に、魔人の虜囚となった私達の悲痛な呻きが沈む。

「はぁ、はぁ……あぁ……、……ああ……フルール……」

私は悔しさと、キスのショックで声を潤ませた。

「どうだ、聖なる者達よ。愛する者の口は甘かったか?」

ゼードは戯れるような口調で語りかけながらも、私の頬を片手で掴むように持ち、ぐいと正面のフルールへ向かせると言った。

「さぁ妖精フルールよ。俺の心遣いに対する礼がまだであろう? ここはひとつ、お前たちの絆とやらについて、詳しく聞かせてもらおうか」

「……な、なにを」

ゼードを睨むフルール。

しかしそれを意に介せず、ゼードはフルールに問いかける。

「お前の口から、聞きたいのだ。この娘を魔法少女に選んだ理由は?」

ゼードによるフルールへの問いかけに、ドクンと、私の鼓動が、大きく波打つ。

『なぜ、私を選んだの?』

それは、いつか私がフルールに訊きたかったこと。

しかし答えようとしないフルールに対し、ニタニタと笑いながらゼードは再び問いかける。

「では違う質問をしてやろうか? 例えばそうだな……」

パチン、と空いた手で指を鳴らして。
その指先に、黒い火花のような闇の力をほとばしらせて見せる。

バチバチと、魔人の指先が帯電しているかのような音を立てる。

「いかに魔法少女といえど、さすがにここまで消耗した状態では……。暗黒のエナジーを放たれれば、そろそろ無事では済まないのではないかな?」

そのゼードの言葉を耳にした途端、私の身体はガクガクと震える。

「……ひっ」

思わず漏れてしまう声。

あの地獄のような痛苦の奔流を、今、再び受けてしまったら。

……無理だ。

もう、今度こそ、本当に死んでしまうかもしれない。

「や、……っ、やめろぉおおおっ!」

叫ぶフルール。

「ならば先ほどの質問に答えろ、妖精。答えなければ、撃ち放つ」

「…………っ」

焦れたようなゼードの言葉に、フルールはがくりとうなだれる。

その小さな口が、声と呼吸をうまくできずに震えている。

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私もまた、緊張で震えていた。

今、彼が私を選んだ理由を、初めて話そうとしている。

ああ。でも。

こんな風に、聞きたくないよ。

「……彼女を、選んだ理由は……」

フルールはうつむきながら、やがて観念したかのように、震える声で話し始めた。

「ユキが、とても優しくて、ステキな女の子だったからだ。ユキと出会う前。僕は、魔法少女にふさわしい女の子を探すために、この街の学校の人たちを観察していた……」

「それで、この娘を見つけたというわけだな?」

「…そう、だ…。…彼女は友達思いで、みんなに、とても優しくしていて……。そんな姿を何度も空から見ていたんだ」

涙をこぼしながら、フルールは言葉を続ける。

「本を読んでいる時の横顔はおとなしそうだけど……なんだか、見た目のイメージとは違う意思の強さが感じられて……このコなら魔法少女になれるんじゃないかって思った」

「それだけか?」

ゼードの声にこもった、とても残酷な響き。

「俺様は、お前のフェアリーエナジーを解析したのだぞ。全てわかっているのだ。……言え。ほかにも、まだ理由があるだろう」

「そんな……。ちゃんと答えたじゃないか」

フルールは、明らかに威圧され、脅えていた。

「も、もういいだろう? これ以上の質問は無意味だ」

初めて見る表情。

あまりにも弱々しく、小さな動物のように慄える姿。

やだよ、こんなの。私の知っているフルールはどれほど強くて大きな魔物にも、決して怯んだりしなかったのに。

こんなフルール、見たくないよ。

そんな私の思いを、ゼードの言葉が踏みにじる。

「余計な言葉をさえずるな、むしけら。質問をしているのは俺だ」

ばちん、と。音がして。
私の口元のすぐそばで、魔人の指先に宿った黒のエナジーが弾ける。
高圧の電流で機械がショートするときのような熱と破裂音。

「……っひぅ…!!」

不覚にも、脅えの声を漏らしてしまう私。

その私の声に弾かれるように、フルールは顔をあげて訴える。

「ま、待て! これ以上ユキを傷つけないでくれっ。言う……。言うから……」

目をぎゅっとつぶって。
そして、覚悟を決めたように。

フルールは、打ち明けた。

「僕は、僕は……、ユキに、恋をしたんだ……」

思わず息を飲む私。

「空の上から、はじめてユキを見た時から。心を奪われた。その仕草、その笑顔。目で追わずにいられなかた」

震えながら、言葉を詰まらせながら、それでも必死に言葉を紡ぐ。

「本当は、ユキを好きになってしまったから……。……それで、彼女を魔法少女に選んだ……。少しでも、いっしょにいたくて。同じ時間を過ごしたくて……。それで……僕は……」

そしてガクリと肩を落とした。

「……でも、それが……こんなことになって……しまうなんて……」

それ以上は言葉にならず、ついにフルールは嗚咽を漏らし始めた。

「……フルール……」

私は、胸がいっぱいになった。

ああ、こんな風に拘束されて吊されていなければ。

私の想いも、伝えるのに。

嬉しいよ、って言ってあげるのに。

今すぐ抱きしめたい。

ありがとうって言いたい。
選んでくれて、ありがとう、って伝えたい。

私を好きになってくれて、ありがとう、って言いたい。

いっぱいいっぱい、抱きしめて。

『私も、フルールが大好きだよ』って、教えたい。

けれど。現実は。

泣きながらうつむくフルールの前で、私は無力で。
傷ついた体で身動きもとれず、吊るされているばかりで。

「ふふ。そうか。では妖精、上手に言えたご褒美だ」

「え?」

「愛する娘の、こんな姿は見たことがなかったであろう?」

ゼードの言葉に、フルールが顔を上げる。

次の瞬間、ゼードは私の身体に向けて、その長い、爪の生えた手を伸ばしていた。

暗い教室。けれど月明かり差し込む、夜のステージ。
その真ん中で、聖なる布が、引き裂かれる音が響いた。そして。

フルールの目の前で、私は、灼けて朽ちかけていた上半身のコスチュームを剥ぎ取られていた。

「……え……。ユキ、そんな……」

汗に濡れた胸が外気によって冷やされることで、目で確認するまでもなく、私は自分の胸が露わになっていることを知った。

「いやぁああああああああっ!」

「くくく。友に優しく、意思の強さが漂う女か。たしかに、魔法少女にはふさわしい」

愉快でたまらぬ、といった様子で私達を嘲笑う。

「だが結局のところ、女そのものに惚れ込んだから、というわけだな? 妖精フルールは、とんだ色ガキだったというわけだ」

けれどもそんなゼードの嘲りの言葉も、もう耳に入ってこない。

私の頭の中は、完全に真っ白だ。

私の胸は、今、好きな男の子の前で、
無理矢理に剥き出しにされてしまっているのだから。

上半身の全てが、裸だった。

汗の、匂いがする。
自分の、汗の匂い。

イヤだ。こんなの。

大好きなフルールの前で、こんなの。

「妖精フルール。どうした。見てやらぬか。貴様の愛する女の、露わになった姿を」

私たちは、震えていた。

悔しさで、心臓が、ドクンドクンと鳴り続けている。

フルールは半裸の私から目をそらして、見ないようにしてくれていた。

今、両手を拘束されて吊るされた私を見ているのは、ゼード。
私の服を剥ぎ取った、卑劣な魔人。

「……っ」

唇を噛みながら、喉の奥から声をしぼり出す。

「見ないで」

震えて、消えてしまいそうな声で。それだけを。

それが、今の私の精一杯。
悔しくて、涙が出そうだった。

でも、ぜったい泣かない。泣くものか、と心に誓う。

「恥じることはない。なかなかに良いぞ。胸の先の色が薄いようだが、これはこれで悪くないものだ」

ドクンと、胸が跳ねる。私は慌てて顔を背けて、耐えた。

「どれ」

ゼードの爪が胸の上ですべる。
乳房を持ち上げるようにたゆませて弄び、そのまま胸の先へと。

誰にも触られたことがない乳首を、弾き、いじる。

不快な感覚が、胸から全身へ波のように広がって、鳥肌が立っていく。

私は顔を背けながらも、横目で蔑むようにゼードを睨み付ける。
必死で無言を保ちながら。

屈するもんか。

負けるもんか。

「男の前で裸になったのは初めてか? 魔法少女」

屈辱的な質問。

ゼードは私を辱めることで、私とフルールの心を傷つけようとしている。
フルールに絶望と屈辱を与えて、その心を砕こうとしている。

そんな手に、乗るもんか。
最後の最後まで、諦めてたまるものか。

私は答えずに口をぎゅっと結び、両手を拘束する手枷を千切りたくて、力を入れ続けた。

「思っていたよりもそそる胸をしているな。魔界の情婦には遠く及ばんが、堅苦しい聖戦士にしては悪くない」

クックと、喉の奥で笑うゼード。

「おまえもそう思うだろう、妖精。この人間の娘の美しさ、なかなかのものだ」

下品な笑いを浴びせられて、フルールは、じっと顔を下げたままでいる。

「この身体にも惚れたのかな? 妖精フルール」

俯いて震えながらも、必死に沈黙を守るフルールに代わって私が答える。

「あなたは、最低よ」

私は吐き捨てるように、心からの軽蔑を込めてゼードへそう言ってやった。

その瞬間、私は、焼けるような痛みに舌を焼かれて悲鳴を上げていた。

「……あぐっ? ……っああ…っあああああああああーーーっ!!」

真っ黒な電撃が、私の舌を狙って放たれていたのだ。

舌に放たれた黒の電撃は、そのまま暗黒の稲妻へと増幅し、一気に私の全身へと駆けめぐる。

「…う…ぁあ……ああああああああああああああああああああああああああ!」

「ユ、ユキ!」

顔を上げるフルール。

「あ! あっ! っあーーーっ!!」

私は電撃で言葉を封じられて、がくがくと身体が跳ねてしまう。汗が、飛びちった。

ダメ、フルール。見ないで。

こんな私の姿を見て、罪悪感を持たないで。

これ以上、あなたの心を傷つけたくない。

そんな。私、負けないよって、言いたいのに。

大丈夫だよって、伝えたいのに。

「…あぐぅああああああああああああぁっぁあああああああああっ」

私の口からは、汚い悲鳴しか出てこないなんて。

そんな私をあざ笑うように。

「言葉に気をつけろと言ったはずだ、魔法少女」

指先からの黒の電流に強弱と緩急をつけながら、私の肉体ごと精神を灼くゼード。

「……うっ……ぅぎっ…、……ひぎゃっ、……ぅ…あ……ああっ、あああああああああああああああっ……」

消化器官までを闇のエナジーで蹂躙され、ひたすら自らの悲鳴を聞かされる。

今度こそ、狂ってしまうかもしれない。いっそ、今すぐ心臓が止まってしまえば、この地獄から解放されるのに。

そんな破滅の予感が頭をよぎったとき。

血を吐くようなフルールの叫び声が聞こえた。

「……やめろよぉっ! もうやめてくれよぉおおっ!」

魔人に許しを乞う言葉が。

「……もう、僕の負けだ。認めるから。……魔物の封印も、使命も、何もかもを手放すから! だからもうやめてよぉっ!」

そのフルールの言葉に、ゼードが黒のエナジーの放出を止める。

「……かはっ」

血が混じった唾液を吐きつつ、脱力して。

私はうなだれた。
ゼードによる肉体の責め苦からは解放されたけれど、精神は絶望に落とされる。

何故。どうして、フルール……。

あなたと私は、2人でひとつの戦士。

そんな絆で結ばれていたはずなのに。
あなたが負けを認めてしまえば、それは私にとっての負けでもあるというのに。

「全部、おまえの、言うとおりにするから……。だから、もうユキをいたぶるのはやめてくれ……」

愕然とする私の前で、魔人が勝ち誇る。

「くふふ。小僧。ようやくその気になったか。やはり、お前達 妖精にはこれが一番効くな」

魔人がくつくつと、満足そうに喉を鳴らす。

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そして。
ピシッ、と氷が割れるような嫌な音がして。

教壇の机に置かれた封印の小瓶にヒビが入る。

……ピシ……ッ……キシッ……

破滅の音と共に、小瓶に亀裂が入っていく。

すぐに割れて砕けないのは、やはり魔法の道具だからだろうか。

けれど、いかに魔法の力が働いていても、あのように亀裂が入っていけば、割れて砕けるのも時間の問題だろう。

「使命よりも愛を選択する愚かさと弱さ。それが、お前達の敗因だ」

目の前で起きている事が信じられない思いの私に対し、嘲るように魔人が語りかける。

「今、この妖精は敗北を認めることで、心の奥底で放棄したのだ。己の使命を」

うなだれるフルールの前で、魔人は得意げに解説を続ける。

「魔物を封じる自らの使命よりも、愛する者の生命を守ることを選んだのよ」

そして、小瓶を指さし勝ち誇った。

「見るがいい、このひび割れた封印の小瓶を。まさに今の妖精の小僧の心そのもの」

実際、魔人の言葉通りだった。彼の指さす先には、中身が今にもこぼれ出しそうな、ひび割れた小瓶。

「やがて封印は瓦解し、瓶に閉じこめられていた魔物達が解放されるというわけだ」

その魔人の言葉に、私は青ざめる。

 

解放される?

 

これまで封じ込めてきた全ての魔物達が?

やがて、この場に?

「……そんな……嘘……」

絶望。圧倒的な、恐怖。

呼吸が乱れ、剥き出しになった乳房が上下にブルブルと揺れる。けれど今の私はそれを隠すことすらできない。

「ふふ。では、前祝いといこうか。妖精。愛した女の裸を、お前に与えてやる」

両手を上げて動けない私のおへそに、魔人は指を当てた。そのまま、ゆっくりとその指を下へ下ろしていく。青いスカートの布にその指をかけ、ゼードは言った。

「見ろ」

魔人の言葉に、私は何が起きるのかを理解する。

「…い、いや……っ……いやぁっ……!」

「ゼード、やめろぉっ!」

私達の制止の声にかまうことなく、悪逆の魔人は一気に、スカートの中の下着すらもまとめて引き摺り下ろした。

濃霧のような暗黒のエナジーが支配した教室の中で、露わにされてしまったのは、私の、誰にも見せたくない……。

じっとりと湿った、女の子の部分だった。

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「はっはっは。魔法少女ユキも、この部分はそこらの小娘と大差ないな!」

ゼードの鑑賞の言葉が、夜の教室に響き渡る。

「 いや、しかし……この陰毛の生えぐあいは悪くないぞ。うっすらと、つつましく! じつにそそるではないか!」

耐えなくちゃいけないのに。

フルールを悲しませたくないのに。
罪悪感で、苦しめたくないのに。

そんな私の意志を、私の唇は、喉は、あっさりと裏切った。

「いや、いやぁああああ! やめてぇ……! ……見ないでぇええ……」

その私の懇願に構うことなく、ゼードの指はバリバリと残る聖衣が引き裂き、剥がしていく。

腕を守るのロングの手袋も。脚のブーツも。
もはや効力を失った聖衣の残骸は、魔人の爪先によって紙くずのように散らされてしまう。

身体を覆う布地は見る間に失われ、私は全裸にされていく。

「……やめて、もうこれ以上は……ダメ……! ダメなの……!!……許して……お願いだから、もう……やめてぇっ!!」

ついに。私の口から屈服と懇願の言葉が吐き出される。

もう限界だった。肉体も。精神も。
ひとたび決壊すれば、あとは止まらなかった。

堪えていた涙がボロボロとこぼれおちる。

「……ひっ…………ひっ……。……やめてぇ……もう……やめて…」

口からは、ぶざまに嗚咽が漏れ、泣き声と許しを乞う言葉が溢れて止まらない。

「………やぁああ……、もぅ…いやぁ、………。…やめて……………。……お願い……します……、もう……許して………くだ……さい……」

その私を見下ろしながら、フルールへと見せつけ、狂ったように笑いこけるゼード。

「はひゃぁあああーはははははははははははははははははははっははははははははははははっははははははははははっはははっははッ!!!」

笑う。嗤う。
ひたすらに、悪逆の魔人は嘲笑と哄笑の中で悶え喜び、勝ち誇る。

「……はははははぁ…! どうだぁ! 見るがいい、妖精! おまえの魔法少女が、ついに泣いて許しを乞い始めたぞ! 俺が、この聖戦士の……身も心も、完全に……裸にしてやったのだ!」

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